中京の懐かしのパン屋、天狗堂海野製パン所

「いってらっしゃい!」

お店からはパンの焼けた良い香りとともに、お客さんを送り出す明るい声が聞こえてきます。こちらは大正11年4月23日に創業し、今年で100周年を迎えたパン屋さん。ずらっと並んだたくさんのパンと、ショーウィンドウ越しに見える三代目店主・滋さんと妻の謹子さんの笑顔が素敵な「天狗堂 海野製パン所」をご紹介します。

100年の味、ここにあり

天狗堂の海野製パン所 祝100周年

創業当時から地域の人々に愛されてきたのは、自家製のこしあんを使った「あんぱん」。和菓子に用いられる北海道の最高級小豆を使用しています。ほんのり甘く、小豆の香ばしさが感じられるあんこをこれでもかと詰め込んだ「あんぱん」は、ちょっとしたおやつに持ってこいの一品です。

お店の名前がついた「天狗堂ロール」は、軽くもちもちとした生地が特徴的な一品。小麦本来の香りと旨味を感じるシンプルな味わいで、毎日でも食べられそう。お店イチオシの商品です。

「天狗堂といえば!」と地元の若者たちが口を揃えるのは「ホワイトホーン」。ラムレーズンと生クリームを使ったこの一品は、11月から4月頭までしか食べられない、限定商品です。店舗やお店のインスタグラムを要チェックしてください!

おやつ系の他にも、種類豊富な惣菜パンや食パンが並び、全部食べてみたいと思う程魅力的なパンばかりでした。添加物を一切使用せず、素材にとことんこだわったこの味は天狗堂でしか食べられません。

天狗堂にはたくさんのパンとともに焼き菓子も並んでいます。

ちょうど「カステラパン」という焼き菓子を作られているところを見ることができました。この焼き菓子、実はなんと創業以来100年続くのだとか。クッキーとパンの間のような食感で、名前にもある通りカステラの味がするそう。

あんぱんや焼き菓子以外にジャムパン、クリームパンなども創業以来ずっと受け継がれてきた味です。

創業当時は、手で生地をこね、薪で焼いていた天狗堂のパン。大正、昭和、平成、令和と時代が移り変わり、少しずつ便利な道具もできてきました。ですが、基本となる部分は変わらず、時代とともによりよい味に改良されてきました。素朴な味わいも、創業100年の天狗堂だからこそ作れるのかもしれません。

支え合い、助け合い、守ってきた店

仕込みは朝4時に始まり、15~16時間働く毎日。家族でパン屋を営むこと、そして100年の味を守ることは並大抵なことではありません。

「今は、ほんとにこの仕事が楽しいんです。でもそこに行き着くまで時間がかかる。」

困難や苦悩を夫婦二人で乗り越えてきたからこそわかる、地元のパン屋であり続けることの楽しさと大変さがあります。

人々の生活になくてはならないもの

お二人の人柄と天狗堂の味を求めて、地域の人々を中心に、連日多くのパン好きが訪れています。今では珍しい対面式の販売方法も、地元の人々に寄り添える最適な形なのだとか。狭い歩道で通行人の邪魔することなく、自転車にまたがったままでも車いすでもサッと買うことができます。犬の散歩のついでや、杖をついたお客さんも気軽に立ち寄ることができ、対面式だからこそ生まれるコミュニケーションも大事にされています。

取材中、一本の電話がかかってきました。「隣の○○さん、ブドウパン何時にできますかだって」

「14時くらいかな」

地元に愛され、地元に寄り添っているからこそ見られる素敵な光景でした。安い市販のパンが街中で売られているなか、リーズナブルな価格設定を貫く天狗堂は「地域のパン屋さん」として譲れないこだわりがあります。

「生活の一部として、パンを日常の食生活に取り入れてほしい」

謹子さんからこんな話を聞きました。地元に帰省したある若者が懐かしの味を求めて、天狗堂にやってきたことがあったそう。それが本当にうれしかったと語る謹子さん。

「おいしくて安全」を大切にした天狗堂のパンは、間違いなく地元の人々の生活になくてはならないものになっています。

天狗堂のパンはすべて手作り。

それもこれも、お客さんのため。そしてお客さんの生活に寄り添うため。

「お客さんが喜んでくれることがうれしい」

そう微笑むお二人が作るパンは、私たちの生活に小さな幸せをもたらしてくれています。

天狗堂 海野製パン所 

住所 京都市中京区三条御前東南角 
地下鉄西大路御池駅より徒歩9
分。阪急西院駅より徒歩13分。
営業時間 7:00~20:00
定休日 日曜日・月曜日
電話番号 075(841)9883
Instagram @tengupan

投稿者プロフィール

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チホ
京都市出身の大学生です。大学では日本文学を学んでいます。京町家や風情のある京の街並みが大好きです。ひとりで京都を歩き、京都のご飯屋さんやカフェ、パン屋さんを巡ることが趣味です。幼い頃から身近にあった京都の街をより深く知り、皆さんに発信していけたらと思います。

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