京都の大学生と地域のまちづくりイベント「お寺マルシェ」

佛現寺で開催された学生団体iroiro kyoto「お寺マルシェ」

京都の若者が主体となり、京都のコーヒー文化を広めるための「まちづくり活動」を行う団体「iroiro kyoto 」のイベントレポートご紹介。大学生らと地域のまちづくりとの関わりの実像が見える。根底にあるのは、つながりを紡ぐ「京都への愛着」だ。

iroiro kyoto は、大学生を中心とした若者が主体となって、コーヒーを楽しめるイベントの企画・運営を軸に、地域で活動に取り組んでいる。今回は、5月20日(土)京都市中京区の「佛現寺」を会場にした開かれた「お寺マルシェ」に潜入。

会場となる「佛現寺」は、 地域との連携を大切にするお寺として話題になっている場所「とまり木」をテーマに、「これから羽ばたく準備をする場」「飛び続けた後、一休みする場」「ただただほっこりゆっくりする場」「そして、いつでも帰ってこれる場」を目指す、中京区で積極的にまちづくりを行うお寺である。

本イベントでは、大学生を主体にした作家による作品の物販や展示、中京区に店舗を構える事業者の物販など、中京区のコーヒーショップからセレクトしたコーヒー豆を使うコーヒー販売も盛んに行われた。

コーヒーを淹れることは京都のまちづくり

本団体は、2021年3月に岡崎公園で開かれたコーヒー店「旅の音」主催の「旅のマーケット」に足を運んだことがが設立のきっかけになっている。代表の大谷さんは振り返る。

当時、もともと大学生の時からコーヒーが好きで、色んなコーヒー屋さんに足を運んでいた大谷さん。ちょうどその頃、新型コロナウイルスが到来し、好きなコーヒーショップが次々となくなる経験をしたそうだ。

「京都のコーヒーショップ・コーヒーの文化を守るためにどうしたらいいんだろう? 何か出来ることはないかな」と考え始めたという。

iroiro kyoto設立への想い

「旅のマーケット」には、コーヒーに限らず色んなジャンルのお店が出店されていて、大谷さん自身がイベントを楽しめたのはもちろん、地域に開かれたイベントだった。単なる「コーヒーが好きな人だけが楽しめるイベント」ではないことに魅力を感じ、ヒントを得る。

大谷さんは、「観光客に頼るんじゃなくて、京都に住んでいる人が京都のコーヒーを楽しむようになれば、コーヒーショップ やコーヒー文化を持続可能なものにできるのでは?」と感じ、「コーヒーが好きじゃない人でも楽しめるようなイベントをやりたい」と一念発起。iroiro kyoto を立ち上げる。

大谷さん「僕らの団体は、京都の若者が主体になっていますが、最初の一年は、instagram しか集客ツールがなく、地域の方とのつながりもなかったので、最初は自分たちで企画をするしかなかったんです」。

次第に、だんだんと人は集まって来るようになってきたものの、地域に開かれたイベントになっているのか、団体の在り方に悩み出した。

課題を感じつつ、2022年の冬から今年の春までは、地域の方々との関わりを持とうと、積極的に地域イベントへ出店したり、Facebookもスタートさせて、交流の場へとにかく足を運び続けた。

京都の若者と地域をコーヒーでつなぐ「iroiro kyoto」真ん中が代表の大谷さん

草の根で出発した学生団体だったが、やっと地域とのつながりもでき始めたiroiro kyoto。今なら、若者にも、地域の人々にも、誰もが楽しめるイベント開催できると自信をつけ、お寺マルシェ開催へとつなげていった。

なぜコーヒーなのか?

コミュニケーションツールとしての「コーヒー」。それは、若い世代が京都の魅力に気づくきっかけになって、 京都の魅力とされる文化や歴史、伝統芸能にはない日常の感覚があるという。

京都はカフェも多く、町家改装の場所をきっかけに若者向けのイベント展開をしやすい。コーヒー片手にコミュニケーションも取れる。「イベントで声をかける小さな京都の自家焙煎コーヒー店舗オーナーさんからは、素直に喜ばれます」。大谷さんは、主催者の想いに共感してくれる、地元のコーヒー店舗とのつながりを大切にしている。

大谷さん「コーヒー好きじゃない人に飲んでほしい。 イベントがきっかけになって、好きになる。その導線になればいいかなと思っています」。

これからのiroiro kyoto の方向性

大谷さんは「京都が盛り上がっていくのが一番大事。京都のまちが好きというのが根底にあるんです。

大学卒業して離れる若者も多いですが、大学初めの1、2回生の時点で<まちでの成功体験がないと、その地に愛着を感じない>と思うんですよね。そういう部分に貢献したいなぁと」。

「何か目的があって、団体を法人化させるというのはありですが、自分は社長 に興味はないんですよね(笑)。京都の魅力にコントロールされてるみたいな感覚かな。店舗やセレクトショップの場所を作って、その場所に行けば、京都のアンテナショップみたいに、京都のモノと出会える、そんな展開を作るのが理想ですね」と語ります。

大学生たちのコミュニティづくりや挑戦の土台に

iroiro kyotoの活動は地域のコミュニティづくりを目指す

地域のイベント来客者と楽しく会話を交わす大学生たちに、活動に参加するようになったきっかけを聞いてみた。

「京都生まれ京都育ちで、お寺や神社、伝統には触れていましたが、コーヒーというアイテムはもっと身近なので、とても良いと思いました」と、コンセプトに共感する人もいれば、「もともとカフェが大好きで、周りにカフェ好きの友達も少なくて。コーヒーや喫茶文化が広まれば、一緒にカフェに行ってくれる知り合いも増えるかなと!今は、少しでも京都のまちを良くできたらなと思ってます」といった、コミュニティのつながりを理由に、活動自体を楽しむ学生もいた。

その一方で、大学生にとっては、コーヒーが洗練されたイメージの一つとして魅力なアイテムなのかもしれない。「ラテアートと出会って、見た目もすごくオシャレでいいなと思って、この活動に関わり始めました」と、コーヒーというアイテムが取り掛かりやすいことで、活動に関わるというケースもあるようだ。

他には、積極性を磨くチャレンジの場所になることも。

「カフェが好きで、チェーン店でバイトしようかなと考えていたんですけど、 ここは、カフェに関わりながらイベントの主催ができる。新しい企画を考え、行動力も身に付きます。自分の通っている大学でコーヒーのイベントを開催したいと代表と話したことも。さまざまな規制等で難易度が高く、実現には至っていないのですが、大学側に交渉をして、いつか実現 できるといいなと思っています」。

新鮮なお寺イベント

今回は、手作りマルシェも境内で同時開催されていたが、大学生の出店が多かった。出店者らは、「アート作品や手作り雑貨を見てもらえることは『社会とのつながり』」と、口を揃えて言う。

京都市立芸術大学の髙田さんは、「芸大生は、閉鎖的な考えを持つ人のようなクローズなイメージが強い。もっとオープンになっていくべきだと思います。今は、美術系の大学も食堂には一般の人が入れるようになった時代です。これからはつながりを意識していきたいんです」。

同大学の森下さんも「個人でイベントに出店したり、展示活動をしたりしています。似顔絵ボランティアや児童館で社会と繋がれるような活動をしています。お寺って普段、ふらっと立ち寄ることなんてできないから、とっても珍しい。お寺のイメージが変わりました」と語る。

三条会商店街にある古着屋「P.O.D(ポッド)」の大狩さんは、ハンドメイドのピアスでの出店。「お寺マルシェはとっても珍しくて。お寺って落ち着くし、来場者とほっこり、ゆっくりと話せる。新鮮な雰囲気でたくさんの作家さんと出会える、最高の機会です」と話してくれた。

「とまり木」佛現寺

今回、お寺マルシェを初めて開催した、佛現寺の副住職の油小路さんにもお話を伺った。iroiro kyoto 大谷さんとは、共通の知人のイベントで出会い、この活動に興味を持ったという。大谷さんの「京都の大学生に、好きを形にできる場所があったらいいのに」という話に共感し、「僕たちの<とまり木>という活動理念と似たものを感じた」そうだ。

地域との関わりに重点を置く「佛現寺の副住職の油小路さん

油小路さん「お寺には、本当にいろんな方がいらっしゃいます。ほっこり心を安めるためにお越しになったり、頑張ろうと心に誓いを立てたり。様々な想いをめぐらせながら、時間を過ごされます。 他者と関わることで、自分では気づけなかったことに気づけ、互いを高め合える良い関係が生まれるんです。お寺って、民間でもない行政でもない、フワッとした存在。色のない存在と言いますか、そういう立場でこそ、何かできることがあると思っています」。

「 うちは堀川の住宅街にあるお寺。たとえば壬生寺さんなども同じ住宅街にある有名なお寺ですが、うちはそれほど立派なお堂があるわけではない。ですが、裏路地にある地元のイキイキとした姿があるのではないかと思います。小さな「まちのお寺」でもこんな活動をしていると知ってもらえると嬉しいです」。

お経を唱えるだけが仏教ではなくて、お堂に訪れること自体に、すごく意味があると思っているんです」。

ー<寺のみ>という地域の方々とお酒を飲み交わすイベントも企画されていますねー

油小路さん「何かしたいねん!と思って、去年から走り出しました。理念としては<とまり木>という立場でいながらも、いろんな意味で、まちの方々と関われるような「カラフルなお寺」になれたらいいなと思っています」。

まちイベントはSDGsにつながる

「三方良し」という言葉がある。まちイベントにも、それが言えるかもしれない。

まず「iroiro kyoto 」にとっては、地域に愛着を生み、学生の挑戦するきっかけになる。次に、イベントに関わる地元の事業体にも、新しい若者層との出会いによって現場が盛り上がる。そして、イベント参加者にとっては、視点を変えた「新しい京都」を発見できる、それがまちイベントではないだろうか。

イベント主催者とその開催場所に「確かな想い」が込められているとき、そのまちイベントは輝く。 地域に深く根付く「まちのイベント」は、まさにSDGsを意識した取り組みであり、持続可能な社会の実現へとつながっていくだろう。

久しぶりに訪れたお寺の境内で、正座しながら参加者と出店者らと話を交わしつつ、「京都のまち」の未来に想いを馳せた一日だった。

投稿者プロフィール

てんちょー
てんちょー
カナダに移住するはずだった、Uターン娘。地元ならではのワクワクを探しつづける日々。洗濯物は、毎日コインランドリー派。場の空気を読むのが下手で、家事が嫌いなのが弱点。
40歳からバンドを始めた喫茶店オーナーです。

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