「おもちゃ映画ミュージアム」で日本映画史を学ぼう

SNSのない時代にショート動画が大流行!?

TikTokやInstagram、YouTubeなどで盛り上がりを見せるショート動画。スマートフォンやSNSの普及を背景に、1分に満たない動画が次々に生み出され、世界中の人々が楽しんでいます。

まさにデジタル技術の進歩がもたらした新しい文化。かと思いきや、実は歴史を遡ると、SNSはおろか、スマホも存在しない90年前にも似たようなコンテンツがありました。

それこそが日本映画の黄金期、映画館での上映後に切り売りされていた35ミリフィルム。当時は親しみを込めて「おもちゃ映画」と呼ばれていたそうです。

今回は、そんなおもちゃ映画を通して日本映画の歴史を学べる「おもちゃ映画ミュージアム」(中京区)を訪問。ノスタルジックなおもちゃ映画の魅力に迫ります。

おもちゃ映画ミュージアムに行ってみた

京都市内では珍しく斜めに走る通りとして知られる「後院通(こういんどおり)」。地図を広げて見てみると、千本三条から四条大宮まで約750mにわたる斜め区間が確認できます。ちょうど通りから少し東に入った閑静な住宅街に同ミュージアムはあります。

友禅染工場だった京町家を改修したという趣あるたたずまい。正面に掲げられたヒノキ板には太く丸みを帯びた文字で「玩具映画博物館」と書かれています。実は、東山区にある歌舞伎の「南座」で東西の歌舞伎俳優の名前が書かれる「まねき看板」と同じフォントが使われています。

入館しようとすると何やら物陰から視線を感じました。怪しげなパネルの正体は、喜劇王チャールズ・チャップリンのサイレント映画「キッド」(1921年公開)のワンシーン。ユーモラスな出迎えに思わず頬が緩みます。

手回し映写機のイラストをあしらった黄色の暖簾をくぐり抜け、いざ「おもちゃ映画」の世界へ!

おもちゃ映画の魅力とは?

映像制作のデジタル化が進む中、フィルム時代の映画文化を後世に伝えるため、2015年にオープンした同ミュージアム。館内は映画業界でプロとして活動する美術スタッフが内装を手がけたそう。まるで映画のセットに迷い込んだような古びた味わいを感じます。

おもちゃ映画とは、劇場で上映された無声映画を20秒から3分ほどに編集したフィルムのこと。名前の由来は、家庭向けのブリキ製のおもちゃの映写機で楽しまれたからとされています。映像を短い尺に凝縮して気軽に視聴するという文化は現代のショート動画にも通じるものがあります。

それでは、なぜおもちゃ映画が生み出されたのでしょうか。実は、大正から昭和の初頭(1920~30年代)に全盛期を迎えた無声映画ですが、音声付きのトーキー映画の時代になると、おもちゃ映画として切り売りされたり、廃棄されたりしてどんどん失われていきました。

元大阪芸術大教授で館長の太田米男さん(73)は長年にわたり、おもちゃ映画の収集・保存に取り組んできました。展示スペースにずらりと並ぶ年代物の手回し映写機やカメラ、フィルムは1000点近くに及びます。

太田さんは「誰でも簡単に撮影ができるデジタル時代だからこそ、フィルムの世界に目を向けてみると新しい発見があります」とし、「もし手元に古いフィルムや映写機など映画に関係するものがあればぜひお声がけください」と貴重な映像資料を残す活動への協力を呼びかけます。

実際に体験してみよう

館内では貴重なおもちゃ映画のフィルムを視聴することもできます。筆者も太田さんに映写機の使い方を教えてもらいながら初めて視聴してみました。

映写機の仕組みはいたって簡単。ハンドルを回すとカタカタとフィルムが回り出し、フィルムに現像された静止画が光を受け、レンズを通して箱の中で映像が投影されます。今回はわずか15秒ほどの時代劇のチャンバラのシーン。生き生きとした役者の動きや流れるようなカメラワークは迫力満点です。

気分はすっかり「金曜ロードショー」のオープニングでおなじみの映写機おじさん。自分の手の動きに連動して映像が流れる確かな手応えを感じました。テレビやネットで視聴する古い資料映像とは味わいが違います。つい夢中になり何度も繰り返し見てしまいました。

同ミュージアムには時代劇のほかにも、アニメや映画、ニュース映像など種類豊富なフィルムを所蔵しています。太田さんは「スマホなら何も考えなくてもワンタッチで動画を再生できてしまいます。ですが、映像制作の根本的な原理は今も昔も変わりません。当館で実際にフィルムや映写機に触れることで映像の仕組みを実感として学ぶことができます」と語ります。

ドラマや映画との深い関わり

太田さんがミュージアムを立ち上げた理由の一つに、「映画関係者や映画を愛する全ての人が交流し、情報交換できる場所を作りたい」という思いがありました。これまで、上映会や講演会、ワークショップなど数々のイベントを開催し、映画業界の活性化を図ってきました。

コロナ禍で思うように活動できない時期もありましたが、「これからも日本の映画文化を盛り上げる拠点として色んな仕掛けを考えていきたい」と力を込めます。

ミュージアムにはイベントに限らず、時折、映画関係者が訪れるといいます。館内の壁には国内外の映画監督の直筆サインが飾られています。

展示物の中にはNHK朝ドラ「まんぷく」(2018~19年)の資料として提供された幻灯機、映画「スパイの妻」(2020年)の小道具として使われた9.5ミリ映写機もあります。現代の映画製作の現場からも協力依頼の声がかかるのは貴重な資料を大切に保存しているからこそです。

大人も子どもも楽しめるミュージアム

おもちゃ映画というユニークな文化を通して、日本映画や映像制作の歴史を学べる同ミュージアム。ぎりぎりデジタル世代の筆者ですが、自分の手で映写機を回し、フィルムの映像を動かす感覚は他では味わえない貴重な体験でした。無声映画の制作に情熱を注いだ職人、今でいうクリエイターの息づかいが感じられた気がします。みなさんもぜひ一度、足を運んでみてはいかがでしょうか。

おもちゃ映画ミュージアムの基本情報
入館時間:10:30~17:00
休館日:月・火曜日
入館料:大人(高校生以上)500円、中学生300円、小学生以下無料

投稿者プロフィール

ひろ
ひろ
気づけば京都に住んでいた駆け出しライター。千年の都で暮らしながら山にこもって遊びまくるアウトドア派。たまに街に下りてきては興味の赴くままにせっせと取材しています。なんでもおもしろがる雑食系なのでジャンルを問わず情報発信していきます!

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